土屋行政事務所 電話番号、メール

遺言の有効・無効

 遺言には主に公正証書遺言と自筆証書遺言かおることは別のページに書きまし た。そして自筆証書遺言は方式の不備により法律上無効になってしまうことも 触れました。

 ところで、方式の不備以外の理由によって遺言が後々無効になってしまうこと もあるのです。公正証書遺言でさえです。
 その主たる理由は、遺言者がその遺言を作る能力がなかったというものです。 例えば、重度の認知症なのにもかかわらずきちんとした公正証書遺言が出来て いるなどの場合、その公正証書遺言は本当に遺言者自身が公証人に口授したも のなのか疑義が生じます。

 遺言が有効であるためには遺言者がその遺言を作る 時に意思能力がなくてはなりませんので、その公正証書遺言は無効ではないか というわけです。このことは自筆証書遺言の場合にもあてはまります。疑義が 生じた時にはすでに遺言者は亡くなっていますので検証のしようがありません。

 このようなケースでは、多数の下級審の裁判例がありまして有効とする裁判例、 無効とする裁判例がそれぞれあります。
 また、自筆証書遺言の場合、方式の不備であってもそれが軽微なもの(例えば、 日付を6月30日と書くところ6月3 1日と書いてしまったりしたものなど) である場合はできるかぎり有効と解すべきという考え方もあります。

 実はこうした遺言者の死後に遺言が無効か有効か裁判で争われるは明治時代か らありました。名字と名前を書くところ名前しか書いていないような場合や手 震えて字が書きにくいので添え手をしてもらった場合など、ケースには枚挙に 暇がありません。

 よく勘違いされやすいのは、自筆証書遺言の場合において、家庭裁判所の検認 手続を経たから、その遺言は有効だと主張する人がいるのですが、家庭裁判所 の検認手続を経たか否かは遺言の有効無効とはなんら関係がありません。確か に検認手続を経ることを法律は義務づけていますが、そのことと遺言の有効無 効とは別の話です。

 実務上、公正証書遺言の場合は公証人は遺言者に意思能力があるかどうかの確 認(認知症などに罹っていないかどうかの確認)に神経を使うそうです。意思 能力があるかどうかの基準としては、認知症の診断に用いられる長谷川式認知 スケールが用いられるようでして、医師の診断でこの数値が30点満点中2 1 点未満の場合は遺言能力(遺言を作るための意思能力をこう言います)がない とされ、公正証書遺言を作ってもらえないそうです。

 万が一裁判等になった場合、この遺言能力があるという証明は遺言の存在を主 張する側がしなければならないと考えられています。ただ、公正証書遺言の場 合には、遺言能力がないという証明をすることは不可能に近いと考えられてお ります。