成年被後見人が行った法律行為は取り消すことができます。 取消しとは、文字通り、その法律行為を最初からなかっかことにすることです。 例えば成年被後見人が所有する不動産を売却した場合、成年後見人がこれを取 り消すと成年被後見人の側は受領した代金を返還する義務を生じ、その相手方 は不動産を返還しなければなりません。
契約を取り消すと、受領した物はすべて返還するのが原則ですが成年被後見人
などの制限能力者の場合には例外がありまして、「現に利益を受ける限度」で
返還すればよいとされています。
この例で言いますと不動産の売買契約を取り
消した成年被後見人は、受け取った代金のうち「現に利益を受ける限度」で返
還すればよいことになります。それでは、どのような場合であれば現存利益が
あるのでしょうか。
具体的には、賭け事などの無益なことに使ってしまった場 合は現存利益がないとされます。つまり、受領した代金1,000万円のうち 300万円を賭け事に使ったなら残りの700万円だけ返せばいいことになり ます。これに対し、生活費に使った場合は現に生活している以上1,000万 円全額の返還義務があります。
法律行為の取消しはいつでもできるため、契約の相手方はいつ取り消されるか 分からない不安定な立場に置かれます。そこで民法は、相手方に取り消すのか 追認するのかを制限能力者の側へ返答を求めることができるものとしました。 相手方は制限能力者が能力者となったときは1か月以上の期限を定めて取り消 すか追認するかの返答をするよう求めることができます。返答がないと追認し たものとされます。被保佐人や被補助人の場合は返答がないときは取り消した ものとされます。
さて、制限能力者(成年被後見人、被保佐人、被補助人)が相手方をだまして 能力者と信じさせた場合はもはや取消すことができなくなります。この場合、 単に制限能力者であることを隠したにすぎない場合は、相手方をだましたこと にはなりません。
ところで、成年後見人は成年被後見人の法律行為について包括的な代理権があ
ります。利益相反にあたらなければ成年被後見人にかわって遺産分割協議もで
きます。
ただし、日用品の購入についてはこの限りではありません。これに対
し、被保佐人、被補助人については代理権を保佐人、補助人に付与する審判が
家庭裁判所でなされたときにその審判の範囲内で代理権を持つことになります。
なお、保佐人、補助人は、被保佐人、被補助人の法律行為に対し、同意権とい うものを持ちます。民法に規定された一定の法律行為のうちこの同意を得ない で行ったものは保護者または本人が取り消すことができるとされております。 家庭裁判所の審判により同意を得なければならない法律行為の範囲を拡張する こともできます。